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人間中心の世界観
在日朝鮮社会科学者・朴庸坤(パクヨンゴン) 先生の著書「チュチェ思想の世界観」(1981)の一部を解説する。
「チュチェ思想とは人間中心の世界観である。それは、物質的生活環境や絶対的精神、神的存在など人間の外にあるなんらかの要因を中心にすえて確立した世界観ではなく、人間を中心にすえて確立した世界観である」
「チュチェ思想は、人間を中心にすえて世界をみることによって、人間が世界の主人、自己の運命の主人であることを明らかにし、あらゆることを人間のために服務させることによって、人間の運命をきり開くことを可能にする」
「チュチェ思想は人民大衆の自主性を実現するための革命の学説である。この思想は人民大衆がすべての隷属から解放され、自主的で創造的な生活をいとなむための革命的な理論と方法を明らかにする」
―朴庸坤 (1981) チュチェ思想の世界観 未来社
マルクス・レーニン主義とチュチェ思想の関係
1948年に朝鮮民主主義人民共和国が建国された当時、まだ体系化されたチュチェ思想はなく、金日成首相(当時)も純粋な共産主義者であり、朝鮮も当時は共産化を目指す純粋なマルクス・レーニン主義の国だった。
マルクス・レーニン主義を朝鮮の実情に適用し発展させたものがチュチェ思想である。
マルクス主義の何を適用したのか
「世界の一般的特徴」を解明した「弁証法的唯物論」
「マルクス主義哲学によって解明された世界の一般的特徴を一言で要約すれば、世界は人間の意識に依存することなく客観的に存在する物質からなりたっており、たえず変化発展することである」
「世界が物質からなりたっておりたえず変化発展するという哲学的原理は、それが物質以外にいかなる存在も認めないという点で唯物論的であり、世界が固定不変なものでなく、たえず変化発展することを認める点で弁証法的であるといえる」
「唯物弁証法的な哲学的原理の確立は人類の世界観発展に大きく貢献した。しかしこの哲学的原理は世界観の根本問題である世界において占める人間の地位と役割を解明するうえで必要な前提になるだけであって、人間の本質的特徴、および人間と世界との本質的な関係については解答を与えることができなかった」
―朴庸坤 (1981) チュチェ思想の世界観 未来社
まずベースとしてチュチェ思想では「世界の一般的特徴」を「弁証法的唯物論」でみるということ。
チュチェ思想は「人間の本質的特徴」は「自主性と創造性をもった社会的存在」であると解明した
その理由を引用する。
「人間は、動物のように自然に与えられた環境と生活手段に依存して生きていくのではなく、何よりも自らの力で創造した環境と生産手段によって生きていく。換言すれば、人間は自然に与えられた生活環境と生活手段の制約から解放され、自己の生存に必要な生活環境と生産手段を自らの力で創造し生きていく」
「人間も環境なしには生きていけないが、しかし人間は自己の生存に必要な環境を創造していくので、環境に依存し拘束されるのではなく、環境を支配する主人としての生活的要求である自主的に生きようとする要求をもつようになる」
「この点で人間が自主的に生きようとする要求をもつのは、客観的世界を自己の要求に合わせて改造しうる創造的能力をもつこととかたく結びついている」
―朴庸坤 (1981) チュチェ思想の世界観 未来社
「世界は物質から成り立っており、たえず変化・発展するものである」という「世界の一般的特徴」と、「人間は自主性と創造性をもった社会的存在である」という「人間の本質的特徴」という二つの前提が提示された。
チュチェ思想の哲学的原理
人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定するというチュチェ思想の哲学的原理は、この新しい思想の提起した世界観の根本問題である「世界において人間が占める地位と役割に関する問題」について集約的に解答を与えた原理である。
「人間は世界における唯一の自主的存在であるので、世界の主人の地位を占め、人間は世界において唯一の創造的存在であるので、世界を変化発展させるうえで決定的な役割を果たす」
「もちろん、人間とそれを取り巻く世界は互いに影響をおよぼし合う。しかしここでつねに主導的な地位を占めすべてのことを自主的に有利に変化させる存在は、自主性と創造性をもったもっとも発展した存在である人間である。この点で人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定するという哲学的原理は、世界にたいする人間の決定的な優位性を解明する哲学的原理はであるといえる」
「『世界の一般的特徴』と『人間の本質的特徴』を解明しなければ、世界において人間が占める地位と役割を解明できないので、世界で占める人間の地位と役割を解明したチュチェ思想の哲学的原理は、『世界の一般的特徴』を明らかにした原理と、『人間の本質的特徴』を解明した原理を自らの構成部分に包括しているといえる。それゆえこの哲学的原理を根本原理とするチュチェ思想の世界観も、『世界の一般的特徴』と『人間の本質的特徴』、そして人間と世界の本質的関係である『世界において人間地位と役割』の三つの側面を全一的に包括している。このような点で世界は物質からなっており、たえず変化発展するというマルクス主義哲学の原理はチュチェ思想の哲学的原理にその一構成部分として包括され、世界の本質的特徴を解明するうえで重要な一側面を担当しているといえる」
「チュチェ思想の哲学的原理は、『世界の一般的特徴』と、『人間の本質的特徴』およびこの両者間の本質的関係を包括することによって、現実世界の本質的特徴を全面的に解明した哲学的原理となる。それゆえ、チュチェ思想の哲学的原理は、従来の哲学的原理にくらべて世界の本質的特徴をいっそう深く解明したものである」
―朴庸坤 (1981) チュチェ思想の世界観 未来社
まとめると、チュチェ思想の哲学的原理は、「世界の一般的特徴」と「人間の本質的特徴」を前提に 、「世界において人間が占める地位と役割に関する問題」 に「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という解答を与え、 現実世界の本質的特徴を全面的に解明した包括的な哲学的原理である、となる。
参考文献 朴庸坤 (1981) 「チュチェ思想の世界観 」未来社