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AI大国 中国
AI(人工知能)の技術開発では、ビッグデータをより多く集めることが重要だ。その点中国は共産党の一党独裁体制で人口は約14億人、世界で最も有利な条件にある。現在中国は米国に並ぶAI大国になったといわれている。
中国政府は2017年7月に「次世代AI発展計画」を発表。最終的には、2030年までに「理論・技術・応用の全ての分野で世界トップ水準」に引き上げ、中国を世界の主要な「AIイノベーションセンター」にするという目標を立てた。関連産業を含めた規模は10兆元(170兆円)になるという。
「天網工程」と呼ばれる監視ネットワークシステムがある。中国全土に3億5000万台の監視カメラが設置されており、2020年のうちに6億台以上にまで増設される計画だという。すでに市民の顔画像データベースは身分証登録データから取得されており、一定解像度以上の監視カメラであれば、映り込んだ人物の氏名、身分証番号などの個人情報を瞬時に顔認識検索、特定できるようになっている。
交差点で個人情報をさらされる
中国の国営通信社CNSの2019年7月28日付の記事から引用する
「南京市公安局の公式ウェブサイトによると、道路横断や信号無視などの違法行為が自動検知されると、顔認識システムを通して運転者データベースや住民情報データベースと自動照合し、違反者の身分情報を取得。約5秒で違反者の顔の画像と氏名、ID番号などの情報を交差点の大型ディスプレー上に映し出すことができるという」
「軽車両の運転者あるいは歩行者を問わず、信号無視などの違法行為が1年以内に5回以上あると『信用のない行為』と判定され、個人信用記録に反映するとしている」
引用記事 「歩行者の信号無視を顔認証で検知、信用記録に反映 南京」CNS
一方、民主主義国家である米国では顔認証システムをめぐり集団訴訟がおきたという。独裁体制の強みを活かして中国はAI技術と監視体制が急速に進んでいる。
監視格付け社会「社会信用システム」
「社会信用システム」とは中国政府による「人民の格付け評価システム」である。2014年に国務院が「社会信用制度の構築に向けた計画概要」を発表し明らかになった。
これは人民の個人行動を採点・格付けし、信賞必罰(功績があれば必ず賞を与え、罪があれば必ず罰すること)するシステムである。
高スコアだと
- ローンを組みやすくなる
- 求職が容易になる
- 公的機関や医療機関で優待される
などの特典があり、低スコアだと
- 飛行機や高速鉄道の利用禁止
- 私立学校からの排除
- インターネット回線速度の低下
- 名声の高い仕事からの排除
- ホテルからの排除
- ウェブサイトやメディアでの個人情報公開
などの処罰がある。
「社会全体の誠実さと信頼性の水準を向上させること」を目的とした「社会信用システム」は、まだ全社会的には展開されてはいないが、社会信用評価が低い市民や企業に対する制限はすでに実施されているという。
また「社会信用システム」プロジェクトの初期に、試験的に参加していたアリババグループの個人信用評価システム「芝麻信用(セサミ・クレジット)」は現在無関係とのこと。
中国のめざす未来
2013年に発足した習近平体制のめざす目標は明確に「米国を抜き、世界一の強国になること」だ。習近平体制が打ち出した2つの戦略をみてみよう。
中国製造2025
現在、米国に次ぐ世界GDPランキング2位の中国は2015年、製造業の高度化、「世界の製造強国」をめざす国家戦略「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」を発表。
「中国製造2025」とは
- 2025年-2035年で「製造強国」への仲間入りを果たす
- 2035年までに世界の「製造強国」の中等レベルになる
- 2049年(中国建国100周年)までに「製造強国」のトップとなる
というもの。
一帯一路
2013年に習近平総書記によって提唱された、現代版シルクロードである巨大経済圏構想「一帯一路」。ASEAN諸国や中央アジア・東欧・アフリカなど該当する経済圏の道路や港湾・発電所・パイプライン・通信設備などインフラ投資に加え様々な分野の投資を行い、一帯一路経済圏における産業活性化および高度化を図っていく計画のことである。
この社会インフラ建設に、中国は自国の規格を世界の標準規格として普及させる「標準化」の狙いがある。
中国政府は、中国の標準規格(スタンダード)を制定するための「中国標準2035」プロジェクトを策定し、2018年に国家標準化委員会を発足させた。いずれ「中国標準2035」戦略が正式に発表されることになるだろう。
まとめ
中国で進行している監視体制の強化を、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」の世界へ向かっていると捉えるのは短絡的だと思う。中国のAI技術は、反体制派や反動派・少数民族の弾圧など間違ったことにも運用されているが、先述した通り、中国のめざす目標は「世界一の強国になること」だ。「世界一の強国」になるための条件として対内的には「社会全体の誠実さと信頼性の水準を向上させる」必要がある。
中国はとても広く人口が14億人もいる巨大な国だ。世界トップレベルの科学者や知識人を数多く輩出している一方格差が大きく、収入もそうだが知的・文化水準の低い人々もものすごく多い。
そのような人々を、半ば強権的ではあるが「天網工程」「社会信用システム」という「システム」で「社会全体の誠実さと信頼性の水準を向上させる」というやり方は、手段としては間違っていないと筆者は思う。
将来 AIや機械の進歩による「生産の自動化」により、先進国から先行してベーシックインカムが導入され、社会主義的・社会民主主義的な国家が世界の主流になるだろう。そんな中、建国の伝統からも統制を嫌い「個人の自由」「小さな政府」を求める人が多い米国は「ベーシックインカム時代」に乗りおくれ、国力が衰退していく可能性がある。盛者必衰、唐やローマ帝国も滅んだように永遠の繁栄はありえない。現在続いている米中貿易戦争も、米国最後のあがきだとみることができる。
次の時代、中国が世界一の強国になることは間違いないだろう。