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首領絶対主義「金日成・金正日主義」
2011年12月金正日総書記の死去により最高指導者に就任した金正恩第一書記(当時)が金正日時代に「金日成主義」と呼ばれていた首領絶対主義を「金日成・金正日主義」と呼ぶようになる。
「朝鮮労働党は、金日成同志と金正日同志を永遠なる領袖として高くいただいた金日成同志、金正日同志の党です」
「朝鮮労働党の指導思想は金日成・金正日主義です。朝鮮労働党は金日成・金正日主義を指導思想とし、その実現のためにたたかう栄えある金日成・金正日主義の党です」
―「金正日同志をわが党の永遠なる総書記として高くいただきチュチェの革命偉業をりっぱになしとげよう」朝鮮労働党中央委員会の責任幹部への談話 2012年4月6日 金正恩
党の唯一領導体系確立の10大原則
1974年に朝鮮労働党によって定められ首領絶対主義を明文化した事実上の最高規範 「党の唯一思想体系確立の10大原則」。2013年に金正恩第一書記(当時)によって39年ぶりに改定され「党の唯一領導体系確立の10大原則」に名称が改められた 。
1974年制定の旧条文
- 第1条 偉大な首領金日成同志の革命思想によって全社会を一色化するために身を捧げて闘うべきである。
- 第2条 偉大な首領金日成同志を忠誠をもって仰ぎ奉じるべきである。
- 第3条 偉大な首領金日成同志の権威を絶対化するべきである。
- 第4条 偉大な首領金日成同志の革命思想を信念とし、首領の教示を信条化するべきである。
- 第5条 偉大な首領金日成同志の教示を執行するにおいて、無条件性の原則を徹底して守るべきである。
- 第6条 偉大な首領金日成同志を中心とする全党の思想意志的統一と革命的団結を強化するべきである。
- 第7条 偉大な首領金日成同志に学び、共産主義的風貌と革命的活動方法、人民的活動作風を持つべきである。
- 第8条 偉大な首領金日成同志から授かった政治的生命を大切に守り、首領の大きな政治的信任と配慮に対して高い政治的自覚と技術による忠誠をもって報いるべきである。
- 第9条 偉大な首領金日成同志の唯一的領導のもとに、全党、全国家、全軍が一つとなって動く、強い組織規律を打ち立てるべきである。
- 第10条 偉大な首領金日成同志が開拓された革命偉業を、代を継いで最後まで継承し完成するべきである。
2013年制定の現行条文
- 第1条 全社会を金日成・金正日主義化するために命をささげて闘争するべきである。
- 第2条 偉大な金日成同志と金正日同志を我が党と人民の永遠の首領、主体の太陽として高く奉じるべきである。
- 第3条 偉大な金日成同志と金正日同志の権威、党の権威を絶対化し、決死擁護すべきである。
- 第4条 偉大な金日成同志と金正日同志の革命思想とその具現である党の路線と政策で徹底的に武装すべきである。
- 第5条 偉大な金日成同志と金正日同志の遺訓、党の路線と方針貫徹で無条件性の原則を徹底的に守るべきである。
- 第6条 領導者(金正恩)を中心とする全党の思想意志的統一と革命的団結をあらゆる面から強化すべきである。
- 第7条 偉大な金日成同志と金正日同志に倣い、高尚な精神道徳的風貌と革命的事業方法、人民的事業作風を備えるべきである。
- 第8条 党と首領が抱かせてくれた政治的生命を大切に刻み、党の信任と配慮に高い政治的自覚と事業実績で応えるべきである。
- 第9条 党の唯一的領導の下に全党、全国、全軍が一つとなって動く強い組織規律を打ち立てるべきである。
- 第10条 偉大な金日成同志が開拓し、金日成同志と金正日同志が導いて来た主体革命偉業、先軍革命偉業を代を継いで最後まで継承・完成すべきである
筆者は強力なリーダーシップを否定するわけではない。良い方向に作用すれば国が大きく発展するからだ。金日成主席はわれわれ朝鮮民族の英雄である。
しかし首領絶対主義・個人独裁・世襲制には反対する。なぜなら首領絶対主義・個人独裁・世襲制は人民を信じていないということになるからだ。また君主が存在しない「共和国」の定義とも相容れない。
朝鮮労働党による一党独裁は支持する。優秀な人材が一つの党に集まって党内で競い合えばいい。同じ社会主義国の中国やベトナムのように首領に依拠せず集団指導体制で発展していくのが健全だと考える。
筆者はチュチェ思想に基づき朝鮮人民・朝鮮民族の発展性を信じているので、次の指導者は人民から選出されることを望んでいる。
「革命の建設の主人は人民大衆であり、革命と建設を推し進める力も人民大衆にある。自己の運命の主人は自分自身であり、自己の運命のを切り開くのも自分自身である」というのが本来のチュチェ思想の定義である。
よって本来のチュチェ思想の定義と相容れない首領絶対主義「金日成・金正日主義」はチュチェ思想ではなく、チュチェ思想を変質させ別ものになった思想だということができる。
朝鮮労働党の政策はチュチェ思想に基づいている
指導思想とは別に、党の政策には金日成時代から一貫してチュチェ思想が反映されている。
「正しい指導を受けることができず、みずからを守る力がなかったために、大国への従属と亡国を宿命のように甘受しなければならなかった悲惨な植民地弱小民族がまさに、一世紀前の朝鮮民族の姿でした」
「むかしもいまもわが国の地政学的位置にかわりはありませんが、列強の角逐戦の場として無残にふみにじられていた昨日の弱小国が、いまでは堂々たる政治軍事強国となり、朝鮮人民は誰もあえておかすことのできない自主的な人民としての尊厳を誇っています」
―金正恩 (2014) 「金正恩著作集」 白峰社
いわゆる先軍思想である。
1994・2017年のアメリカとの開戦の危機を乗り越え自主的な国防手段である核・ミサイル開発を続けてきたのも上に引用したような歴史観から生まれたチュチェ思想に基づいた戦略だと評価することができる。
また2020年の朝鮮労働党の方針「正面突破戦」もチュチェ思想に基づいた政策だとみることができるだろう。